以下は,(社)情報サービス産業協会 JISA 会報43号に掲載された解説文である.
Copyright (C) Masaji KAWAHARA 1996 All Rights Reserved.

ソフトウェア超流通
-研究開発の進展と最近の動向-

河原正治

1.はじめに

マイクロプロセッサは, コンピュータハードウェアの量産を初めて可能にした. その性能および売り上げは20年以上にわたって急激な成長を続けており, マイクロプロセッサを汎用部品として利用することにより, 情報機器の急激な価格低下がもたらされた.

このような急激な価格低下はソフトウェア開発では起こっていない. オリジナルと同品質のコピーが高速かつ安価に作られるという, 本来ならば優れた性質が,混乱を引き起こしたからである. このために,マイクロプロセッサでは1種類当たり100万個単位の量産は 普通に行われるが,ソフトウェアでは例外的である. また,ハードウェアでは当然かつ不可欠の基盤である部品産業は, ソフトウェアの領域では実用規模にはなっていない.

マルチメディア分野においては,上のような問題に加えて, マルチメディアデータ(素材)に関する著作権の問題点として, マルチメディアソフトウェア制作者が, すべての権利者との合意を得ることの困難さが指摘されている.

ソフトウェアの部品産業を確立し,マルチメディアの普及を促進するためには, ソフトウェア部品やマルチメディア素材を自由に供給し, その対価が適切に得られるような技術的・法的基盤が不可欠である.

超流通は,ディジタル情報の自由な流通と利用とを実現するための基盤技術であり, 1983年に森亮一(当時,筑波大学,現在,神奈川工科大学)によって発明された. 超流通は,これまで不可能と考えられていた「ソフトウェアの量産」を可能にする. ディジタル情報を「所有する」のではなく, 利用するたびに使用記録が管理され, それを回収することによって料金を徴収し収入を再分配するシステムである. これまで,パーソナルコンピュータのアプリケーションソフトウェアのための 超流通についてプロトタイプの開発などを行ってきた [1, 2, 3, 4, 5].

以下では,まず,2において超流通の概要を解説する. 3では,超流通の各方面からの評価の変遷を振返ることによって, 超流通がディジタル情報流通の基盤技術として不可欠なものであるとの認識が 定着しつつあることを示す. 4では,超流通が発明されてから現在までの超流通研究開発の 進展について紹介し,5では現在検討している 電子オブジェクトのための超流通研究の現状について簡単に述べる. 超流通に関する情報を提供するために,World-Wide Webの Superdistribution Resource Pageを運用しており,超流通に関する もっとも新しい情報は,

より入手可能である.

 

  figure27


図1: 超流通システムの一例

2.超流通とは?

 

2.1 超流通と「超流通ラベル」

超流通を実現するためには,流通させるディジタル情報に対して, 使用条件を電子的に添付する必要がある. この使用条件を「超流通ラベル」と呼ぶ. 超流通ラベルが添付されたディジタル情報を 「超流通コンテンツ」と呼ぶ.

超流通ラベルが持つべき性質として以下のものがある[6, 7].

  1. 変造,除去,不当追加が困難なこと,または,それらの履歴が明確に残ること. 必要に応じて,暗号による保護や物理的な防御手法が提供される.
  2. 超流通コンテンツと超流通ラベルとが「論理的に」不可分であること. 言い換えれば,別々に流通する場合でも, それらの間に論理的に切り離せないリンクが確立されていること. コンテンツとラベルとは, ディジタル情報の利点を活かして様々な経路で 同時にあるいは別々に入手できるようになる.
  3. 超流通ラベルが一意に解釈できること. 言い換えれば, ディジタル情報としての標準化された表現形式を持つこと.
  4. 混在した超流通ラベルの参照が適切に処理されること.

ソフトウェア部品やマルチメディア素材としての 電子オブジェクトを組み合わせて流通させ, 利用料金を適切に課金するための基本事項として超流通ラベルが考慮されていることを (4)の性質は示している. 超流通ラベル間の依存関係を記録し課金することも, また,全く独立に課金することも可能である.

超流通コンテンツを処理する機器には, 「超流通ラベルリーダ(SDLR : Superdistribution Label Reader)」が付加される. これは,超流通ラベルの記述にしたがって, 超流通コンテンツの使用記録を管理するものである.

2.2 アプリケーションソフトウェア課金のための超流通

 

   figure43
図2: 超流通ラベルの表示

超流通においては, 従来の有体物の取引では不可能であったような,様々な課金の形態が可能である. 試用課金, 従量課金, 自動買い取り, 買い取り後の返金, 特別許諾, 無料だが使用状況の報告を義務づけるものなどが検討された. コンテンツの特色に応じて,単純な課金から複雑なものまで自由に 選択することができる.

また,使用料金の徴収・分配には 既存のクレジットカード決済システムを応用することによって, 導入時のコストを最小限におさえるシステムも提案されている (図1参照).

これまでに,パーソナルコンピュータのアプリケーションソフトウェアの 使用記録を管理するための二つのプロトタイプが開発されている (4参照). SDLRを実装するために 既存計算機のシリアルインタフェースを利用するものと, コプロセッサインタフェースを利用するものである.

以下では, 開発した超流通計算機のプロトタイプの動作を例に, アプリケーションソフトウェアの課金がどのように行われるかについて 説明する[3, 4, 5].

   figure53
図3: プログラム停止画面

23にプロトタイプの画面例を示す. 利用者は,まず,計算機にSDLRを取り付ける. 超流通計算機上でプログラムが実行されると,SDLRはプログラムに 添付された超流通ラベルをもとに使用記録を作成・管理する. 利用者はあらかじめ設定された条件にしたがって使用記録を 転送することによって使用料金が徴収される.

2は,プロトタイプ計算機で動作している超流通ソフトウェアの 超流通ラベルを表示した例である. これは,SDLRとともに提供される超流通ユーザユーティリティによって 行われる.ここでは, エディタの料金設定の一つの例として, 時間制料金と機能別とを実現している.

使用記録の回収についても様々な方式が実現可能である. 現在稼働しているプロトタイプ計算機では,利用者のSDLRに あらかじめ使用額の上限を設定する方法を用いている. 使用額の累計がその上限に達すると,SDLRは超流通プログラ ムの実行を停止し,使用記録の転送を促す.利用者は,使用記録を転送する ことによってプログラムの使用を再開することができる. 図3にプログラムの停止画面の例を示した.

上述の例は,コンピュータプログラムの課金を示しているが, 同様のメカニズムを用いることによって,すべてのディジタル情報に対して 課金することが可能である.

3.超流通の評価の変遷

ここでは,超流通に対する各方面からの評価を振返ることによって, 円滑なディジタル情報流通のためには超流通が不可欠の技術基盤であることの 認識が急速に広まってきたことを示そう.

 

 

  figure66


図4: 超流通関連文献数の推移

3.1 1983年〜1993年における評価

1983年10月から,超流通に関する特許の出願と論文の発表が始まった.当時の 超流通に対する反応は無視であり,反論さえも得られなかった. 論理的には超流通が妥当であっても社会にとって必要になるとは信じられなかっ たか,あるいはもっと簡単に,そんなことができるはずがない,と人々もほと んどのコンピュータ専門家も考えたようである.もちろん,多くの人々は, 超流通の存在を知らなかったと思われる.

1990年前後になって米国において超流通が高く評価されるようになった.

3.1.1 BYTE誌の評価

1989年米国BYTE誌1月号pp.343-351は特集企画で人工知能,IC,高級言語,UNIX とC,のそれぞれの創始者であるMinsky,Kilby,Hopper,Ritchie,に続けて超 流通のMoriを挙げた[8].

1990年の米国BYTE誌9月号は,15周年記念の特集で,パーソナルコンピューティ ングに最も影響力がある世界の63人を選び,表紙にその名前,テーマ,所属を 挙げた. 森と超流通がそれに選ばれた[9].

3.1.2 Brad Coxの評価

1992年の``Dr. Dobb's Journal''誌10月号pp.44-48に,OOPS (Object Oriented Programming System)の仕掛人の一人であるBrad Coxが書いた論文の表題は ``Superdistribution and Electronic Objects''であった.彼は超流通を彼自 身のテーマより前において彼の評価を示し, 超流通を ``Revolutionary Approach'' であると述べている[10].

また,Coxは1996年に, ``Superdistibution-Objects as Property on the Electronic Frontier-''と 題する書籍を出版し,超流通が重要な基盤技術であるとの評価を維持している [11].

3.1.3 日本電子工業振興協会の活動

上述の米国での評価に先駆けて, 1987年4月1日,日本電子工業振興協会(以下,JEIDA)に ソフトウェア超流通技術専門委員会の前身である 「マイクロコンピュータソフトウェア基盤技術専門委員会 (通称,SSS委員会,後にソフトウェア超流通技術専門委員会)」が設けられた.

1988年2月には,この委員会からの報告として 「ソフトウェア流通の問題点と対策」が 刊行され[12],その後,毎年, ソフトウェア超流通技術報告がまとめられている.

3.2 1993年〜現在における評価

1993年後半になって, マルチメディア分野で ソフトウェアの権利処理の困難さが顕在化し始め, 超流通ならば電子技術によって解決できるであろうこと, そして他に解決方法は知られていないことの認識が急速に広まった.

その一つの現れとして, 1993年から超流通関連出版物が急増している. 図4は, 超流通に関する論文・解説記事,超流通を引用した出版物の 年毎の数をグラフにしたものである.以下のような分類を 採用した.

A:出版物
超流通の発明者である森亮一を著者に含む出版物
B:特許出願
超流通の発明者である森亮による超流通関連特許出願
C:A,B以外
A,B以外で超流通に言及した出版物

3.2.1 Wired誌の評価

米国Wierd誌は,まず, 1994年9月号にBrad Coxによる ``Superdistribution''を掲載し [13], さらに,1995年6月号には,``Reality Check''と題する記事において, 以下の5つの技術の可能性について評価を行っている[14].

Novell Inc.,Object Management Group Inc., Microsoft Corporationなどの6人の専門家の意見を 総合的に判断した結果として,ソフトウェア超流通がもっとも有望であり, 「専門家の大多数が,ソフトウェア超流通に必要な ハードウェアがこの10年のうちにパーソナルコンピュータの 標準になると考えている」と述べた.

3.2.2 日本国内の商業誌による特集

日本国内では, 日経エレクトロニクス誌が, 1994年11月21日号において「マルチメディアの著作権問題を技術で打開」 と題する特集を掲載した[15]. その後半pp.84-88は, オーディオ・ビジュアル機器メーカ, コンピュータ・ソフトウェア, LSIメーカなどの技術者による座談会であり, 「超流通は技術的に可能であり,導入すれば, ソフトウェアメーカだけでなくハードウェアメーカにも 見返りがある」と結論した.

3.2.3 学会における評価

1994年9月28日,超流通が歴史的必然であると主張した論文 [6]は,情報処理学会情報メディア研究会の最優秀論文と して1994年度の山下記念研究賞を受けた.

1994年9月21日に開催された電子情報通信学会の情報セキュリティ研究会は「超 流通および関連する応用分野」と題したものであった.IBM,茨城大学,神奈川 工科大学,筑波技術短期大学,日本電気(2件),富士通(2件),北海道大学(2件) 発表があった.企業の超流通への取り組みが公表されたのはこれが最初であ る.

1996年2月号の情報処理学会誌は, 「マルチメディア社会をめぐる法律問題」を特集し, 電子技術的解決法として超流通の解説記事を掲載した[7].

また,1996年9月には,電子情報通信学会ソサイエティ大会において, 超流通シンポジウムの開催が予定されている.

3.2.4 法律の専門家による評価

マルチメディア,インターネットの急速な普及によって, 旧来の知的財産権に関する法律の不備が指摘されるようになったが, 知的財産法の専門家も超流通技術を視野に入れた法整備を議論するようになった. 伊勢呂裕史[16], 田村善之[17], 名和小太郎[18], 中山信弘[19] らが超流通について積極的に言及している.

3.2.5 超流通を目指す商用システム

1995年になって「超流通を目指す」ことを明言した情報提供システムが発表された. 富士通のMediaShuttle,IBMのinfoMarketである.

MediaShuttleについては,

を,また,infoMarketについては, をそれぞれ参照されたい.

 

  figure107


図5: プロトタイプIの外観

4.超流通研究の歴史

 

4.1 超流通の誕生

1983年に森亮一が「超流通」を発明した. 当時の名前は「ソフトウェア・サービス・システム (SSS)」であった. これは,Water Service System (水道) にならったものである. ディジタル情報流通のための電子技術の必要性についての一般の認識は低かったので, 革命的な印象を与える「超流通」という 名称より穏当であったかも知れない.

ソフトウェア・サービス・システムの満たすべき条件として, 以下の9項目があげられた[1].

  1. 充分な保護性能を持つ.
  2. 利用者が,ソフトウェアを複製することは自由であり, それをファイルシステム,ネットワークノードなどの任意の場 所へ格納し,自由に呼びだして実行できる.
  3. ハードウェアを付属させる,あるいは媒体に特定のもの を使用するといった必要がなく,純粋な情報としてソフトウェ アを流通させることができ,電気的伝送手段による低コストの 流通が可能である.
  4. 利用者は,ソフトウェアを無料または極めて低価格で試 用することができ,不満足であればそれを返却することができ る.
  5. 利用者を特定せず,不特定の利用者が計算機IDなどを報 告する必要がなく匿名で,料金を支払うのみで自由にソフトウェ アを利用できる方式から,権利者の指定した利用者だけに限っ て利用を許す方式まで,幅広い許諾供与方式を提供できる.
  6. 利用者に対して計算機アーキテクチャを秘密にする必要 がない.
  7. その保護流通システムへの新しい権利者の参入が自由で 容易である.
  8. ソフトウェア部品の市場が成立する.
  9. システムを社会へ最初に導入する際の抵抗が少ない.

上述のJEIDAの委員会報告「ソフトウェア流通の問題点と対策」[12]の 序文の中で,「超流通」という呼び名が用いられ, それが「超市場」と「超信頼性」をもたらすことが述べられた. これ以前にも,委員会の議論等では「超流通」が用いられたが, 印刷された形で残っているものとしては,この報告書が最初である.

 

  figure121


図6: 3次元ICを利用したディジタル保護容器

4.2 超流通の進化

4.2.1 超流通のためのプロトタイプI

1986年には,田代秀一(現在,電子技術総合研究所)を中心に, 超流通のためのプロトタイプ I が開発された[2]. これは,PC-9801のシリアルポートにSDLRを接続し, 使用記録を管理するものである. シリアル接続のためオーバヘッドは大きいが,超流通の実現可能性を明確にした. プロトタイプIの外観を図5に示す.

4.2.2 3次元ICを利用した保護容器

1988年には, 3次元ICによる保護容器(図6)が森亮一によって 発明された[20]. これは,強い物理的防御, すなわち,暗号の鍵を知らない限りその保護容器を設計・製作した人々自身が 攻撃しても破れない程度の防御を持つ情報の容器である. 保護容器は超流通において重要な役割を果たすが, それ以外の広い分野に応用される可能性を持つ.

4.2.3 超流通のためのプロトタイプII

1989年には, 超流通実用化を意識したプロトタイプ II が, 筆者を中心として開発された[3, 4, 5]. これは,SDLRを実装するために既存計算機のコプロセッサ・インタフェースを 利用したものであり,以下のような特長を持つ.

7にプロタイプIIの外観を, また図8にSDLRインタフェース部分を示した.

 

  figure141


図7: プロトタイプIIの外観

4.2.4 システム全体像の見直し

同時に,筆者によって,システム全体の見直しも行なわれ, 既存のクレジットカード決済システムを応用することによって, 導入時のコストを最小限におさえるシステムが提案された (図1参照). それまでは,超流通の実現のためには,決済センタと呼ばれる, おおよそ銀行システムと同程度のものが必要であると考えられていたが, この提案によって,様々な規模と種類の超流通システムが 大きな初期投資を必要とせず実現される可能性があることが示された.

4.2.5 超流通のための料金制の検討

また,超流通においては, 従来の有体物の取引では不可能であったような,様々な課金の形態が可能であり, その可能性が検討された[21]. これらは,植木伸一(現在,ソニー),大瀧保広(現在,茨城大学)を 中心としてまとめられたもので, 超流通で提供される主な課金システムとして以下のようなものが 検討された.

  1. 試用課金,
  2. 従量課金,
  3. 自動買い取り,
  4. 買い取り後の返金,
  5. 特別許諾,
  6. 無料だが使用状況の報告を義務づけるもの
などである.

4.2.6 ディジタルオーディオのための超流通

1990年になって, コンピュータプログラム以外のディジタル情報の取り扱いについても 具体的な検討が始まり, 筆者を中心に, ディジタル・オーディオのための超流通システムが設計され, JEIDA委員会の報告書としてまとめられた[22, 23].

4.2.7 その他の動向

1993年頃から,CD-ROMとパスワードを利用したソフトウェア流通システムが 実用化され始めた.これらのシステムは, 超流通への第ゼロ世代のシステムとも考えられている.

また,1994年頃から,我々のグループ以外からも 超流通に関する研究成果について発表されるようになった [24, 25, 26, 27, 28]. 中でも,富士通は,IBM PC用のISAバスに接続する形の SDLRのプロトタイプを開発するなど積極的に進めている.

   figure158
図8: プロトタイプIIのSDLRインタフェース部

5.電子オブジェクトのための超流通へ

 

オブジェクト指向に基づくソフトウェア再利用技術は, ソフトウェア開発コストを大幅に削減すると考えられてきたが, 期待ほどの効果を上げていないのが現状である. これは,再利用を促進するための技術的基盤が欠如しているため, 再利用の対象が主としてソースコードになり, 知的財産権上の問題が発生しないような 小規模なグループでしか共有できなかったことによる[29, 30].

オブジェクト単位の課金を実現するための機能を 既存のオブジェクト指向言語環境に付加することにより, 電子オブジェクトが広く流通されるような技術基盤を検討する.

ここでは,ソフトウェアの部品化を進め,また, マルチメディアにおける権利処理を円滑に行うことを目的とした, 「電子オブジェクト課金のための超流通モデル」について 簡単に述べる.

アプリケーションソフトウェアのための超流通は, ソフトウェア量産による収益の増大をもたらす. これに対して,電子オブジェクトのための超流通は, ソフトウェアの開発費の劇的な低下をもたらすだろう.

また, メーカおよび個人が様々なソフトウェア部品や アプリケーションソフトウェア製品を自由に提供し, 収益を得られる 「超流通ソフトウェア部品コミュニティ(図9)」 が可能になると考えている.

 

  figure169


図9: 超流通ソフトウェア部品コミュニティ

5.1 電子オブジェクトのための超流通モデル

 

すでに述べたように, 超流通を実現するためには,流通させるディジタル情報に, 超流通ラベルを添付する必要がある. 電子オブジェクトを組み合わせて, ソフトウェア部品やマルチメディア素材として流通させる場合に, 超流通ラベルが利用料金を課金するための基本となる. また,ネットワーク上に分散されたオブジェクト間のハイパーリンクを 適切に処理するメカニズムが必要である.

電子オブジェクトの超流通は以下のような性質を満たすものとする.

  1. 個人・企業を問わず,誰でも超流通オブジェクトを 市場に投入し,収益を適切に回収することができる.
  2. 超流通オブジェクトの利用条件を指定できる.
  3. 超流通オブジェクトの再利用に関する条件を指定できる.
  4. 利用者は,自由に互換性のある部品と入れ換えることができる. 部品入れ換えに際して,必要に応じて返金が可能である. アプリケーション提供者は,それを構成する各部品について 入れ替えを許すかどうかを指定できる.

5.2 オブジェクト課金のための試作システムの現状

 

SDLRにオブジェクトの生成を管理し記録する機能を実装することができれば, 5.1で述べたようなモデルを実現することができる. さらに,オブジェクトの実行制御機能により, コンテンツ提供者が,より自由な価格設定を行なうことが可能となる.

SDLRをソフトウェアでエミュレートすることによって, 課金機能と実行制御機能を提供するプロトタイプを開発中である. 既存のオブジェクト指向言語にSDLRとの通信機能を付加することによって, オブジェクト単位での使用記録の管理が可能となる予定である.

謝辞

本稿の草稿を丁寧に読んで有益なコメントを下さった 神奈川工科大学 森亮一先生,茨城大学 大瀧保広先生に 深謝いたします.

References

1
森亮一,田代秀一 : ``ソフトウェア・サービス・システム(SSS)の提案'', 電子情報通信学会論文誌, Vol. J70D ,No.1, pp.70-81 (1987)

2
田代秀一,森亮一 : ``ソフトウェア・サービス・システム(SSS)の小規模な試作'', 電子情報通信学会論文誌,Vol. J70D,No.2, pp.335-345 (1987)

3
河原正治,森亮一 : ``超流通アーキテクチャのためのプロトタイプII'', 情報処理学会 情処研報, IS 27-6, pp.1-9 (1990)

4
Kawahara, M. and Mori, R. : ``A Prototype Implementation of Superdistribution Architecture'', 電子情報通信学会 暗号と情報セキュリティシンポジウム講演論文集, SCIS90-6C, pp.1-9 (1990)

5
Mori, R. and Kawahara, M. : ``Superdistribution : The Concept and the Architecture'', The Trans. of IEICE, Vol. E73. No.7, pp. 1133-1146 (1990)

6
森亮一, 河原正治 : ``歴史的必然としての超流通'', 情報処理学会 超編集・超流通・超管理のアーキテクチャ シンポジウム論文集, Vol.94, No.1, pp.67-76 (1994)

7
森亮一, 河原正治, 大瀧保広 : ``超流通 : 著作権処理のための電子技術'', 情報処理, Vol. 37, No. 2, pp.155-161 (1996)

8
Mori, R. : ``What Lies Ahead'', BYTE, Vol.14. No.1, pp.346-348 (1989)

9
Mori, R. : ``On Superdistribution'', BYTE, Vol.15, No.9, p344 (1990)

10
Cox, B. : ``Superdistribution and Electronic Objects'', Dr. Dobb's Journal, No.193, pp.44-48 (1992)

11
Cox, B. : ``Superdistribution-Objects as Property on the Electronic Frontier-'', pp.155-165, Addison-Wesley (1996)

12
(社)日本電子工業振興協会 : ``ソフトウェア流通の問題点と対策'', pp.1-70 (1988)

13
Cox, B. : ``Superdistribution'', Wired Magazine, ISSUE 2.09 (1994)

14
Pescovitz, D. : ``Reality Check'', Wired Magazine, ISSUE 3.06 (1995)

15
``マルチメディアの著作権問題を技術で打開-「超流 通」は技術的に可能,導入すれば機器メーカにも見返り-'', 日経エレクトロ ニクス, No.622, pp.84-90 (1994)

16
伊勢呂裕史 : ``著作権をめぐる諸問題'', コピーライト, Vol.33, No.389, p5, (社)著作権情報センター (1993)

17
田村善之 : ``ディジタル化時代の著作権'', 電子情報通信学会技術研究報告, ISEC 94-13, pp.33-39 (1994)

18
名和小太郎 : ``マルチメディアと著作権'', 電子情報通信学会誌, Vol.78, No.5, pp.441-445 (1995)

19
中山信弘 : ``マルチメディアと著作権'', 岩波新書, pp.156-166 (1996)

20
Mori, R. : ``Protected Module'', 電子情報通信学会 暗号と情報セキュリティシンポジウム講演論文集, SCIS90-6B, pp.1-10 (1990)

21
植木伸一,大瀧保広,森亮一 : ``超流通のための権利管理機構における会計処理'', 情報処理学会 情報研報, IS 27-5, pp.1-10 (1990)

22
(社)日本電子工業振興協会 : ``ソフトウェア超流通技術に関する調査'', マイクロコンピュータに関する調査報告書[III], pp.103-158 (1991)

23
(社)日本電子工業振興協会 : ``超流通技術報告'', マイクロコンピュータに関する調査報告書[III], pp.71-110 (1992)

24
西野信 : ``超流通と半導体-シリコンへのインプリメンテーションの考察-'', 電子情報通信学会技術研究報告, ISEC 94-13, pp.47-54 (1994)

25
門田浩 : ``組み込みシステムと超流通'', 電子情報通信学会技術研究報告, ISEC 94-13, pp.55-57 (1994)

26
鳥居直哉,木島裕二,勝山恒男,小森宰次 : ``超流通のためのシステム開発'', 電子情報通信学会技術研究報告, ISEC 94-13, pp.59-66 (1994)

27
田上和光 : ``情報提供サービスと超流通'', 日本システム工学会研究資料, 1995年1月27日 (1995)

28
鳥居直哉,長谷部高行,武仲正彦,木島裕二 : ``超流通システムの試作'', 電子情報通信学会技術研究報告,OFS 96-10, pp.1-5 (1996)

29
松本正雄編 : ``ソフトウェアのモデル化と再利用'', 共立出版 (1995).

30
青山幹雄 : ``コンポーネントウェア : 部品組立て型ソフトウェア開発技術'', 情報処理,Vol.37, No.1, pp.71-79 (1996).

筆者の知り得るすべての超流通関連出版物のリストを

で公開しているので,あわせて参照されたい.


1996年10月17日 (木) 17時03分14秒 JST